就業規則・賃金規程・社内規則の作成、変更について
就業規則は会社の労働関係における憲法のような役割を果たす重要な書類です。いい加減に作成してはいけません。
就業規則は、法的な書類です。作成にあたっては、法的な感覚(リーガルマインド)が必要になります。契約書を作成できるような力量が必要です(民法的な感覚が必須)。単純に雛形を持ってきてもうまくいかないのは当然です。会社毎に考え方が違い、また働き方も違うので、オーダーメイドで作成しなければならない書類です。
就業規則は、重要な労働条件(休日や労働時間など)を記載した本則と呼ばれるものに、給与規程や介護休業規程などが附属しています。ですから就業規則には沢山の規定類がセットになっていると考えて下さい。通常、5~10程度の附属規定がついています。
就業規則の作成には社員の同意は不要です。基本的に会社側が一方的に決定して良いこととなっています。しかし、社員に内容を説明するなど、同意を得る形でスタートした方が好ましいことは言うまでもありません。
就業規則がないと、きちんとした労務管理を行っていないとみなされ、取引上支障が出る場合があります(特に大手企業との取引の場合)。あるいは求人で不利になることもあります。
常時10人雇用するようになった場合は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります。「常時」にはパートタイマーなども含みます。
労働基準法第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(以下略)
就業規則を提出する際は、従業員代表の意見書も添付しなければなりません。「意見」書ですから、まれに「第○条には反対です」と書いてあることもあります。反対と書いてあるからといって、監督署がこれを受け付けないということはありません。単にそのような意見があった、というだけで、就業規則の効力には何の影響も及ぼしません。そのまま提出して問題ありません。
就業規則の作成義務があるにもかかわらず作成していない場合は、監督署から指導がなされます(是正勧告の対象になります)。
就業規則の作成義務がないから、必要性がないとは言えません。10人未満であってもいろんなことが起きます。
就業規則がないと、個別にその都度対応することとなり、「あの人はこうだったのに、なぜ私はこうなのか?」と不満が出ることにも繋がりかねません。
当オフィスでは10人未満であっても就業規則は必要であると考えています。社員に安心して、納得して気持ちよく働いてもらうための公平なルールが就業規則ですから人数は問題にならないはずです。
労働時間や賃金、休憩、休日など労働基準法に定めてある基本的な事柄(絶対的記載事項)については必ず定めなければ成りません。
育児休業や介護休業など労働基準法以外の法律に基づいて会社が行わなければならない事項についても定める必要があります。再雇用に関する規程なども(事実上)必須になっています。
内容の一部を別規定にすることも可能です。退職金規程、育児休業規定、旅費規程、慶弔見舞金規程、自動車管理規程、安全規程、情報管理規程など、会社によっては多数の附属規程が必要となります。
会社の方針や考え方などを盛り込むことは全く問題ありません。また、硬い表現をしなければならないこともありません。社員が読むことを想定して内容や表現を考えるべきです。イラストを入れても全く問題ありません。
就業規則と雇用契約書(労働条件通知書)は基本的に同じ内容になりますが、整合性が取れていないと、どちらを優先するのかという問題が発生しますので、きちんと整合性を取ることが重要です。
■よく、書いてある内容と異なる運用をしている会社があります。これは絶対にしてはいけません。自分で作成した物を自分で破っているわけですから、全体として、規則の役目を果たしていないことになります。
例えば、いざ懲戒処分をしようにも、ある部分を無視して別の運用をしていたならば、懲戒処分の部分も無視してもいいじゃないか、なぜそこだけ厳格に運用するのか、と突っ込まれてしまいます。
就業規則を変更することは勿論可能ですが、社員側に不利に変更すること(これを「不利益変更」といいます)は、原則社員側の個別同意が必要となり、注意が必要です(不利益にならない場合は原則通り同意は不要)。変更のご依頼があった場合は、この不利益変更になるかならないかに最も注意を払います。
一旦作成したものを後日、社員側に不利に変更することが非常に難しいため、最初にどう内容を決めるかは慎重に考えなければなりません。
一般的なひな形は不利益変更のことなどあまり考えられていません。ですから、例えば「賞与を払う」と書いてしまえば、なにがどうあろうと、基本的に支払わなければならないことになります。これを賞与を支払う「こともある」と変更することは現実的に難しくなります。
不利益変更のことを考慮せず変更した場合は訴訟などのリスクを抱えることになります。単純に成果主義的な給与に変更した場合、不利益変更に該当することもあります(現に多くの訴訟が起きています)。賃金体系などを変更する場合、法的な検討が絶対的に必要となります。
近年は法改正が頻繁にあるため、例えば10年前のものは、改正しないと使えないということになります。
就業規則がないと、なにかあった場合に、その場その場で判断することになります。結果として、「あの人の場合はこうだったのに、なぜ今回は違うのか」といったように不公平感が出てしまう可能性があります。就業規則がない場合に、あることを行ったとしましょう。それはその会社の前例になります(慣習法があるとみなされる場合があります)。そうなりますと、意図せず規則が存在することになってしまいます。規則がないから自由だという考え方は正しくありません。前例主義になるのだと思って下さい。
できたら曖昧にしておきたい、という経営者の心理もありますが、曖昧にしていると、いざという場合(例えば懲戒処分を行う場合)に困ることになります。懲戒処分を行うような場合は、具体的に「就業規則のこの部分に違反している」と言う必要があります。就業規則がないと懲戒処分ができないということではありませんが、根拠があるのとないのとでは、トラブルになった場合に大きな差が出ることを認識すべきです。
就業規則の定め方によっては、合法的に残業代を減らすことも可能です。あるいは合法的に年次有給休暇を消化させてしまうことも可能です。就業規則の定め方は人件費に大きな影響を与えるのです。
就業規則は経営者の考えを社員に伝えるという役目も果たしますから、私は10人未満であっても作成すべきと考えています。きちんと規則が整備されていれば、社員も安心して働くことができますのでやる気を醸成する効果もあります。
リスク管理という側面から考えると、就業規則は「問題社員」から会社を守る最後の砦です。就業規則がないといざというとき本当に困ります。問題社員に反論したり、先に述べた懲戒をしようにも「武器」がないという状態になります。
就業規則は、会社を守るための防衛手段であることは論を待ちませんが、かといって就業規則さえ作っておけば、絶対に問題が起きないとは言えません。所詮、人間の社会ですから、労使間に不信感があれば、どのような規則があろうとも問題は起きると考えて下さい。労使間の信頼関係があれば、逆に就業規則などなくても問題は起きません。完璧な就業規則を作ったから大丈夫などいう考え方は極めて危険です。労働法の解釈は判例も割れることが多いのです(逆の結論が出たりします)。労働法は結論が一つではないということが何を意味するか、よくお考え下さい。
就業規則は助成金とも関係があります。就業規則がないと助成金がもらえない場合もあります。
就業規則の重要性を認識していない経営者の場合、ほとんどがひな形を用意してきて、適当に自社に合わせて修正しておしまいということになります。それでいいのでしょうか?
ひな形はあくまでひな形です。就業規則は極めて重要な法的な書類です。いわば会社と社員の間で交わす契約書のような役割を果たしますから、適当に作成すると後で大変なことになる可能性があります。「まさか、こんなことが書いてあるとは知らなかった」という経営者が後を絶ちません。ただほど高いものはありません。
就業規則は一面、会社を法的に守る役目を果たしますから、いざというときに役に立たないようなものを作成すると、損をするのは会社であることを認識して下さい。ですから安易に雛形を利用することは避けるべきです。
可能であれば全社員や社員の一部で委員会を作成し、社員を交えて作成することが望ましいと思います。社会保険労務士に丸投げするよりは良い物ができることは間違いありません。自分たちで作成したとなれば遵守意識も高くなることは言うまでもありません。
紙で提出します。もよりの監督署に2部持って行くことになります。意見書も同時に提出します。一部は控えとして持ち帰り保存します。
電子申請することも可能です(PDFファイルによる)。他店舗展開しているような事業所ですと、電子申請が非常に便利です。但し、意見書はそれぞれ必要になります。
就業規則は社員にきちんと提示し、いつでも見ることが出来る状態にしておく必要があります。パソコン上で(社内イントラネット上で)見ることが出来るようにしておいてもかまいません。各社員に配布してもかまいません。
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第七項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
金庫の中や机の中にしまったままで、社員に見せていない場合、いざというときに「見たことがない」と言われてしまいます。就業規則がなかったこととされてしまう可能性がありますから、注意しましょう。
■賃金規程(給与規程)
■退職金規程
■旅費規程(意外と作成に時間がかかります)
■再雇用規程
■育児休業規程
■介護休業規程
■慶弔見舞金規程
■情報管理規程
■特定個人情報に関する規程(いわゆるマイナンバーに関する規程)
※これ以外にも非常に多くの規程が存在します。会社に合わせて作成可能です。
就業規則を役所に提出するのであれば、役所の雛形を使えばいいではないか、文句も言われないし、とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。間違いではないです。役所は受け付けると思います。
ダメではないのですが、単に役所に提出さえすればよいとお考えなら問題ないです。内容的に間違っているわけでもないです。どうぞこちらからダウンロードして下さい。当方に依頼する必要はないです。
ただ、もし、労務トラブルを防ぎたいという目的で作成したいのならば、役所の雛形は危険だと言わねばなりません。
役所の雛形は事業者に労働基準法等の法律を守らせる目的で作成、交付しています。決してトラブルを防止しようと考えて作っているわけではありません。行政指導的な意味合いも込められた条文も多いです。簡単に言うと、「労働者に有利に作成してある」と考えて頂いて構わないと思います。それがダメだと言うつもりはないですが、そもそもなぜ役所が無料で配布しているか、その目的を考えて頂きたいと思います。
行政書士でもありますので、民法や労働判例を念頭に法的に問題のない形で作成いたします(ここが他の社労士さんと決定的に違う点です)。基本的にオーダーメイドになりますが、予算に応じて臨機応変に対応いたします。はっきり申し上げて、巷に出回っている雛形とは大きく異なります(一般的な雛形は使い物になりません)。トラブルを防止するという観点を常に持って作成しています。見積いたします。
基本的にお客様と一緒に考えながら、何度も打合せをすることになります。一緒に作っていくという形を取ります。基本的な概念についても随時説明し、同じ土俵に乗って頂いて作成していきます。当方が一方的に作っても、いいものはできないと考えています。実際運用するのはお客様だからです。
お客様の社内での同意が得られるまで、長期間かかる場合もあります。これは非常に大事な工程になりますので、何ヶ月もお待ちすることもあります(その間の報酬は発生しません)。
診断士でもありますので、社員のやる気や動機付け、あるいは人件費の適正配布という点にも配慮しながら作成いたします。決算書のチェックをする場合もあります(同意あった場合のみ)。
当然ですが、会社側の立場に立って作成します。思想的に社員側の立場で作る人もいますが、そのようなことは致しておりません。
ひな形では対応できない細かな諸規定の作成が可能です。情報管理規定(情報漏洩防止)など、パソコンの知識がないと作成できないようなものも対応可能です。
基本的にどう運用するかが重要です。作成することよりもどう運用していくかということを念頭において作成します。運用できないものを作成しても意味がないと考えています。
■ひな形とどう違うのか。実例で見てみます。
東京都労働局のページに載っているひな形です。
「この規則は、第2章で定める手続きにより採用された従業員に適用する。ただし、パートタイム従業員、アルバイト及び嘱託従業員の就業に関し必要な事項については、別に定めるところによる。」
就業規則の最初の部分である総則によくある規程です。当オフィスではこのような決め方はしません。問題点は、
①パートタイム従業員、アルバイト、嘱託従業員とはどういう人を言うのか定義がない。
②定義がない以上、実際の運用はできない。区別する実益がどこにあるのか不明。
③「別に定める」の別とは何を指すのか不明
例えば次のように記載した方がわかりやすくなります。
第○条
本規則は、会社の社員に適用されるものとします。
2 本規則で社員とは、第2章の規定により会社に採用された者を指し、次の各号に該当する者は含みません。
① アルバイト、契約社員、嘱託社員等、その名称を問わず、期間を定めて臨時に雇用する者
② パートタイマー等本規則で定める所定労働時間に比して1日又は1週間の労働時間が短い者
3 本規則で従業員とは、社員及び前項第1号、第2号の者をいいます。
4 本条第2項の規定によって本規則の適用を除外された者の労働条件等については、個別に締結する労働契約によります。
実際の運用を考えれば少なくとも上記のような記載方法にすべきです。一般に出回っているひな形は残念ながらこのようなレベルのものがほとんどなのです。
★具体的な進め方としては、まず業務内容、基本事項について聞き取り調査を行った後、素案を提示します。その後、お客様のとの打ち合わせを納得いくまで行います。最後には従業員説明会を行うという形が多いです。大まかに言って、2か月~半年ほどの時間を要することが多いと思います(規模等に左右されます)。
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